近ごろ人気の「ドライガーデン」がどんな庭園かご存じでしょうか。乾燥を好む植物を用いて砂地や砂利などのロックガーデン風に植え付ける、少し無骨で男性的な印象のおしゃれな植栽です。
こちらの記事では、ドライガーデンにぴったりな「多肉植物」を15種類選んでご紹介。また多肉植物の植栽で一番大切な「耐寒性」などの注意点をくわしく解説します。
一晩でオジャンになることも…
自宅の庭の最低温度を調べる
それでも寒さに負けるときもある
ドライガーデンにぴったりな多肉植物15選
①ゴールデンバレルカクタス(金鯱サボテン)
②エケベリア 「トップスプレンダー(トップシータービー)」
③マツバギク
④キダチアロエ
⑤セダム「オーロラ」
⑥ミセバヤ
⑦ユーフォルビア・リギダ
⑧柱サボテン「鬼面角」
⑨アガベ・ストリアータ「吹上」
⑩アガベ・アテナータ
⑪エキノケレウス「青花蝦(アオバナエビ)」
⑫アガベ・マクロアカンサ
⑬アガベ・パリー・トランカータ
⑭センペルビウム
⑮アガベ・アメリカーナ
【まとめ】多肉植物は「寒さに強い」わけではないので注意しよう
ドライガーデンに使う「多肉植物」選びは簡単ではない
いきなり不穏な見出しで始まりますが、多肉植物を使ったドライガーデンを計画しているのであれば、とても大切なことなので最初に記しておきますね。
ドライガーデンの砂地に「多肉植物」が植わっていたら、カッコいいですよね。しかし、多肉植物の原産地はメキシコや南アフリカであり、日本とは気候が違います。1年間の最低気温を見てみましょう。東京都の多摩地区で一番寒い日が‐1℃なのに対し、メキシコでは6℃、南アフリカでは9℃ほどなのです。多肉は基本的に「寒さに弱い植物」と理解しましょう。見た目がカッコいいからという理由だけで選んでしまうと、あとで大変なことになってしまいます。
一晩でオジャンになることも…
多肉植物は、葉や茎に水分を抱え込み肉厚なのが特徴。真冬に「耐寒性のない多肉植物」が屋外に植わっていたらどうなるでしょうか?水分が凍り、細胞組織が破壊されて枯れてしまいます。
せっかく多肉植物をドライガーデン用に購入しても、一晩でダメになってしまったら悲しいですよね。でも心配ご無用。日本の暖地でなら越冬できる種類がいくつかあるので、必ず耐寒性があるか下調べしてから購入しましょう。
自宅の庭の最低温度を調べる
意外と「自宅の庭の最低気温」を知らない方も多いのではないでしょうか。天気予報の気温を見ればよいと思うかもしれませんが、天気予報の気温は「観測地点の芝生の上1.5mの位置」で観測された温度が記されており、自宅のドライガーデンとは異なります。
※参照:気象庁『気温はどこで、どのように計測しているのですか?』
「自宅の庭の最低気温」を調べるには、最低温度が記録できるタイプの温度計があると便利です。一番寒い時に、ドライガーデンを作りたい庭に温度計を置き、自宅の最低気温を調べます。意外かもしれませんが、一番寒いのは夜中ではなく、良く晴れた朝方なのです。ご注意くださいね。
それでも寒さに負けるときもある
最低気温を調べたから大丈夫、というわけにもいかないようです。最近、暖冬気味の冬が続いていましたが、2021~2022年の冬は、想定外の寒波が各地を襲い、農作物に被害が出ました。耐寒性があっても多肉植物のコンディションが悪ければ、寒さで傷む可能性があります。もし可能ならば、真冬になる前に掘り上げて、室内で管理しましょう。
室内に持ち込めないなら、挿し木や差し芽をしたり、種まきしたり、予備を作っておくと安心です。また、株元にマルチングをしたり、ビニールや不織布などをかぶせて、直接霜が当たらないようにしたり、工夫をするといいでしょう。
(ただし、ビニールは朝晩の開け閉めは必須です。開け忘れてしまうと、日中蒸れて腐ってしまう可能性があります)
ドライガーデンにぴったりな多肉植物15選
関東以西の気候なら栽培可能な「ドライガーデンにぴったりな多肉植物」を15種類選んでご紹介します。寒さに強い多肉植物は限られているので、どうしても「アガベ」や「エケベリア」の品種が多くなってしまいます。同じような見た目にならないように、メリハリをつけて選ぶのが成功のコツですよ。水やりは成長期は月に1~2回、冬はやらないのが基本です。
①ゴールデンバレルカクタス(金鯱サボテン)
■学名:Echinocactus grusonii
■科属名:サボテン科タマサボテン属
■開花:7月
■草丈:最大1m以上
■原産地:メキシコ
■耐寒性:5℃(5度を下回ったら室内で管理)
■耐陰性:日向を好む
ゴールデンバレルカクタスは「金鯱(キンシャチ)」と呼ばれる玉サボテンの代表的な種類です。黄金色の鋭いトゲが特徴で、SNS映えするルックスなのでぜひ利用したいところですが霜には弱いので、最低気温が5度を下回り、強い霜が降りそうな地域では、最初から室内での管理を想定して、鉢植えにしてドライガーデンに配置する工夫をするとよいでしょう。
②エケベリア 「トップスプレンダー(トップシータービー)」
■学名:Echeveria runyonii ‘Topsy Turvy’
■科属名:ベンケイソウ科エケベリア属
■開花時期:春~夏
■直径:15cm
■原産地:メキシコなど
■耐寒性:0℃(霜が降りそうなら鉢上げか防寒を)
■耐陰性:日向を好むが、夏は直射日光に当たらないよう半日陰で管理
エケベリアの中でも「トップスプレンダー」は、葉先が反り返るように伸びる個性的な葉っぱが特徴。秋になっても紅葉しません。比較的寒さには強い種類なので室内に入れなくても育ちますが防寒をしましょう。通年、風通しの良い場所に植えましょう。増やし方は「株分け」です。
③マツバギク
■学名: Delospermaなど(画像はデロスペルマ・クーペリー)
■科属名:ハマミズナ科デロスペルマ属
■開花時期:6月~10月
■草丈:10~15cm
■原産地:南アフリカ
■耐寒性:-15℃(特に防寒は必要なし・デロスペルマ・クーペリー)
■耐陰性:日向を好む
現在流通している「マツバギク」にはいろいろな種類あり、一つの植物を指すわけではないようです。「マツバギク」のなかでも耐寒性に優れているのは「デロスペルマ属(Delosperma)」の一種クーペリー(D. cooperi)で、-15℃でも越冬するので「耐寒マツバギク」と呼ばれています。「レイコウ(麗晃)」や「花嵐山(はならんざん)」という商品名で出回ることも。
④キダチアロエ
■学名:Aloe arborescens
■科属名:ススキノキ科(ワスレグサ科) アロエ属
■開花時期:12~3月
■草丈:1~2m
■原産地:南アフリカ
■耐寒性:0℃(霜が降りそうなら鉢上げか防寒を)
■耐陰性:直射日光を好む
アロエは、昔から「医者いらず」と呼ばれ、薬効がある植物として化粧品や健康食品などに使われています。日本では鎌倉時代から育てられていました。アロエは全300種類ほどありますが、どれも耐寒性がありません。この「キダチアロエ」が一番寒さに強い種類で、関東以西で霜の降りない暖地ならば地植えも可能です。
⑤セダム「オーロラ」
■学名:Sedum rubrotinctum
■科属名:ベンケイソウ科マンネングサ属
■開花時期:5月
■草丈:15~20cm
■原産地:メキシコ
■耐寒性:0℃(霜が降りそうなら鉢上げか防寒を)
■耐陰性:日向を好むが、夏は直射日光に当たらないよう半日陰で管理
様々な種類がある「セダム」の中でもつやつやのジェリービーンズのような葉を持つ「オーロラ」。人気の園芸品種にも「虹の玉」「レッドルビー」などがあります。0℃以下になると枯れる恐れがあるので霜よけは必須。もっと耐寒性が欲しければ、ここまで色付きませんが「乙女心」という品種なら、‐9℃まで可能です。
⑥ミセバヤ
■学名:Hylotelephium sieboldii
■科属名:ベンケイソウ科ムラサキベンケイソウ属
■開花時期:10~11月
■草丈:10~30cm
■原産地:日本
■耐寒性:-3℃(特に防寒は必要なし)
■耐陰性:日向を好む
ミセバヤは日本が原産の多肉植物。日本の気候に良くなじむので、防寒は特に必要ありません。野山の僧侶が見つけて「君にみせばや(見せたい)」という詩を添えて、師匠に贈ったことが名前の由来とされています。園芸ではよく見かけますが、自生地では絶滅危惧種です。
⑦ユーフォルビア・リギダ
■学名:Euphorbia rigida
■科属名:トウダイグサ科ユーフォルビア属
■開花時期:春~初夏
■草丈:50~80cm
■原産地:南アフリカ、トルコ、イラン
■耐寒性:-10℃(特に防寒は必要なし)
■耐陰性:日向を好む
ユーフォルビア・リギダはシルバーの羽根のように細い葉がクール。葉は柔らかく常緑性です。茎が立ち上がるように生育するのがトウダイグサ科の名前の由来です。冬は紅葉し、春になると黄色い花を咲かせます。
⑧柱サボテン「鬼面角(キメンカク)」
■学名:Cereus hildmannianus
■科属名:サボテン科ケレウス属
■開花時期:7~10月
■草丈:最大10m
■原産地:ブラジル、アルゼンチン
■耐寒性:‐6.6℃
■耐陰性:直射日光を好む
「鬼面角(キメンカク)」は柱サボテンの代表的な種類。某遊園地のウエスタンランド周辺に植わっていそうなルックスですよね。縦に長く、3m~10mにもなるのでシンボルツリーとしても利用できそうです。比較的寒さに強いので地植えで育てられますが、近年の大寒波の襲来や雪や霜が降りる地域での屋外越冬は難しいので、防寒対策が必要でしょう。
⑨アガベ・ストリアータ「吹上」
■学名:Agave striata
■科属名:キジカクシ科アガベ属
■開花時期: 2~7月(開花後に枯れるので子株を取る)
■草丈:25~50cm
■原産地:メキシコ
■耐寒性:-3℃(特に防寒は必要なし)
■耐陰性:日向を好むが、夏は直射日光に当たらないよう半日陰で管理
細長い葉を上に向かって無数に伸ばす、スタイリッシュなアガベの一種。ストリアータとはラテン語で「まっすぐ」という意味。見た目に違わない学名です。また、泉が吹き上げているように見えるところから「吹上」という和名がついています。耐寒性もバッチリあるので、ドライガーデンにうまく活かしたいですね。
⑩アガベ・アテナータ
■学名:Agave attenuata
■科属名:キジカクシ科アガベ属
■開花時期:2~7月(開花後に枯れるので子株を取る)
■草丈:50~150cm
■原産地:メキシコ
■耐寒性:-2℃(他のアガベよりは寒さに弱い。霜よけを)
■耐陰性:日向を好むが、夏は直射日光に当たらないよう半日陰で管理
「アテナータ」は、この画像では分かりにくいですが幹が立ちあがるアガベの種類。幹の上に、先が尖ったやや幅広な葉をロゼット状にしなやかに伸ばします。トゲもないのでどこか女性的な上品さがあります。色味が青っぽい「ホーチンブルー」という種類も人気。
⑪エキノケレウス「青花蝦(アオバナエビ)」
■学名:Echinocereus viridiflorus
■科属名:サボテン科エキノケレウス属
■開花時期:6~8月
■草丈:50~200cm
■原産地:メキシコ、アメリカ南部
■耐寒性:-10℃(特に防寒は必要なし)
■耐陰性:直射日光を好みます
サボテンらしい姿に、白とピンクのとげがキュートなエキノケレウス。特に「青花蝦」は、標高が高いところに自生し寒さに強いのが特徴で、地植えにも向いています。ほかにもケキノケレウスには「白紅司」「尠刺蝦」「錦丸」「紫太陽」などの品種があります。
⑫アガベ・マクロアカンサ
■学名:Agave macroacantha
■科属名:キジカクシ科アガベ属
■開花時期:夏(開花後に枯れるので子株を取る)
■草丈:50~100cm
■原産地:メキシコ
■耐寒性:-2℃(霜が降りそうなら鉢上げか防寒を)
■耐陰性:日向を好む
アガベ・マクロアカンサは、肉厚でシルバーかかった細めの葉っぱが放射線状に広がり、先端にある黒いトゲがクールで男性的な印象です。種類が豊富で、葉が長いもの、短いもの、葉の色幅などに違いがあります。別名、Dwarf Black-spined Agave(スピンアガベ)。マクロアカンサ・ベルデという品種が人気です。
⑬アガベ・パリー・トランカータ
■学名:Agave parryi var. truncata
■科属名:キジカクシ科アガベ属
■開花時期:6~8月(開花後に枯れるので子株を取る)
■草丈:15~80cm
■原産地:アメリカ
■耐寒性:-5℃(特に防寒は必要なし)
■耐陰性:直射日光を好む
「パリ―・トランカータ」はシルバーリーフで丸みを帯びた、ロゼット状のアガベの一種。葉が広がらず、まとまりがよいのでコンパクトな草姿。多肉質の葉の先端には、赤黒く鋭いトゲがあり、スタイリッシュな印象です。斑入り品種もあります。
⑭センペルビウム
■学名:Sempervivum
■科属名:ベンケイソウ科センペルビウム属
■開花時期:2~7月(開花後に枯れるので子株を取る)
■直径:5~20cm
■原産地:ヨーロッパ、中東、ロシア、アフリカ北西部
■耐寒性:-5℃(特に防寒は必要なし)
■耐陰性:日向を好むが、夏は直射日光に当たらないよう半日陰で管理
ロゼット状で寒さに当たるとローズ色に紅葉するので、まるでバラのように見える多肉植物「センペルビウム」。アクセントに使うとおしゃれです。耐寒性は非常に高く、雪や霜が降りてもびくともしません。反対に室内ではうまく育たないかもしれないので、屋外で育てましょう。
⑮アガベ・アメリカーナ
■学名:Agave americana
■科属名:キジカクシ科アガベ属
■開花時期:2~7月(開花後に枯れるので子株を取る)
■草丈:50~200cm
■原産地:アメリカ
■耐寒性:-5℃
■耐陰性:直射日光を好む
アガベ・アメリカーナはリュウゼツランらしいワイルドな株姿!ドライガーデンのシンボルにぴったりです。アガベの和名「リュウゼツラン」は「竜の舌」の蘭と書くとおり、長い葉が四方に乱れて伸び、ドラゴンの長い舌を思わせます。センチュリープランツとも呼ばれ、百年に1回開花してそのまま枯れてしまう。メキシコではテキーラの原料です。そんなところもカッコいいですね!
【まとめ】多肉植物は「寒さに強いわけではない」ので注意しよう
「ドライガーデンにぴったりな多肉植物15選」をご紹介しました。こちらで紹介した多肉植物は「耐寒性がある」「寒さに強い」と言われている種類です。しかし、あくまでも「他の多肉植物に比べて」という意味であり、耐寒性のあるほかの植物に比べたら「寒さに弱い方」だということを忘れないでください。「最低気温0℃」といっても、最低気温が5度を下回ったら注意して観察し、霜が降りるようなら「鉢に掘り上げる」「寒冷紗をかける」など何らかの対策を施しましょう。多肉植物を正しく知って、素敵なドライガーデンを造ってくださいね。
2024年1月26日更新
執筆者:造園技能士 竜門 健太郎