トピアリーや生垣に欠かせない庭木【イヌツゲ】|刈り込み・剪定の基本とコツを解説
ツヤのある小さい葉が密生し、刈り込みに強いイヌツゲ。
日本の庭では定番で、玉散らしや生垣、縁取りなどさまざまに利用されてきました。
現代の庭でも洋風の鉢に入れてトピアリーにするなど、使い方によってフォーマルにもラフにも仕上げられて、とても使い勝手の良い庭木のひとつです。
また成長が遅いのに新芽がよく伸び、さらに丈夫で育てやすいので、初心者でも手入れが難しくありません。
この記事では、基本の刈り込みの仕方や、株を元気にする透かし剪定のコツなどを解説します。
目次
イヌツゲの基本情報
イヌツゲの特徴
イヌツゲの主な品種
マメツゲ(liex crenata ‘Convexa’)
キンメツゲ(ilex crenata ‘Kinnmetsuge’)
イヌツゲを剪定する時期
イヌツゲの剪定方法
イヌツゲを剪定するメリット
イヌツゲの育て方
まとめ
自分での剪定は事故に注意!
イヌツゲの基本情報
分類:モチノキ科モチノキ属
学名:Ilex crenata var. crenata
英名:Japanese Holly、Box-leaved Holly
和名:犬黄楊(いぬつげ)
別名:ニセツゲ、ヤマツゲ、イカシバ
原産地:日本全土
樹高:2〜10m
常落区分:常緑広葉樹低木〜高木
日照:日向
耐寒性:強い
耐暑性:強い
開花期:初夏
花色:白
果実色:黒
植え付け時期:春、秋
花言葉:魅惑、堅固
イヌツゲの特徴
イヌツゲは日本の北海道から沖縄まで自生する、モチノキ科の植物です。自生する山地では時に10mを越す高木となることがありますが、普通は2〜3m程度に育ちます。剪定に強く、生垣や玉散らし、トピアリーなどに仕立てたりと、和風の庭にはもちろん、洋風の庭にもよく合います。萌芽力もとても強く強健で育てやすいため、街路樹などにも利用されます。雌雄異株で、雄株も雌株も初夏に白〜クリーム色の小さな花を咲かせます。雌株には秋に黒い実がなります。
名前にツゲとつく上、葉の形や大きさなどもよく似ていますが、ツゲ科のツゲとは別の植物です。ツゲは成長が遅いため材質は緻密で強く、高級木材として将棋の駒や印鑑などに利用されてきました。それに対してイヌツゲは成長が早くツゲよりも材質が悪いため、役に立たないという意味で「イヌ」ツゲという名前がつけられたようです。ツゲはヨーロッパで古くからトピアリーとして使われていますが、日本の庭では気候の合うイヌツゲのほうが一般的です。
イヌツゲの主な品種
イヌツゲには変種が多く、本種を含め約25品種ほど見られます。本種とは葉の大きさや形が違うコバノイヌツゲ、オオバイヌツゲや、ナガバイヌツゲ、斑入りイヌツゲなど見た目もさまざまです。樹姿にも違いがあり、ホウキのような樹形のホウキイヌツゲ(スカイペンシル)や、這い性のハイイヌツゲ、枝がうねるウンリュウツゲ(スパイラルドラゴン)などがあります。赤い実のなるアカミノイヌツゲは寒冷地向きの品種です。中でも庭木としてよく見られるのは、以下の2つです。
マメツゲ(liex crenata ‘Convexa’)
イヌツゲの変種で、マメイヌツゲとも呼ばれます。葉がぷっくりと膨らんで丸みを帯びているのが特徴です。葉色は濃い緑色で光沢があり、新芽は赤みがかっています。イヌツゲよりも樹高が低く株立ち状に育ち、玉仕立てによく使われる庭木です。種を植えるとイヌツゲに戻るため、マメツゲは挿し木で増やします。耐陰性があり日陰でも育ちますが、日照が足りないと葉のツヤが悪くなります。
キンメツゲ(ilex crenata ‘Kinnmetsuge’)
イヌツゲの園芸種で、春に芽吹く新芽が黄色〜クリーム色の美しい品種です。イヌツゲも新芽は黄色っぽいですが、より明るく特徴的です。イヌツゲよりも葉が少し小さく、より密集してつけるため、トピアリーや生垣に使われます。和風の庭だけでなく洋風にも合わせやすく、庭が明るくなります。日向を好みますが、日光が半日程度当たる半日陰でも育ちます。
イヌツゲを剪定する時期
2月から9月頃の間であれば、基本的にいつでもできます。枝が伸びたと思った時にこまめに刈り込んでも良いです。ただしあまりに気温が高い真夏は避けましょう。放置してボサボサになっていたり、樹勢が良すぎて伸びすぎてしまったイヌツゲを整えるような強剪定は、2月下旬〜3月頃の早春が適しています。
定期的に行うなら、年2回の刈り込み・剪定がおすすめです。まず1回目は、春に伸びた新芽が固まってきた、梅雨明けから夏の間に剪定と一緒に刈り込みをします。2回目は、1回目の刈り込みから枝が伸び、芽吹かなくなった12月頃です。イヌツゲは成長が遅いので、2回目は1回目から伸びた枝を軽く整えるくらいで済みます。
年に1回に済ませたい場合は、涼しくなってきた9月頃が適期です。10月に入ってしまうと休眠期に入り、新芽を出さなくなってしまいます。刈り込んだままの形で翌春まで待たなくてはいけなくなり、樹形が固くてあまり美しくありません。9月に刈り込んで、少し芽吹いてから休眠期に入るほうが、冬の間も綺麗な見た目を保つことができます。
剪定の適期
・基本:真夏を避けた2〜9月の間ならいつでもOK
・年2回行う場合:6月下旬〜7月頃と12月頃
・年1回行う場合:暑さが和らいだ9月頃
イヌツゲも含めた、樹木別剪定時期年間カレンダーを作成しました。興味がある方は、ぜひご覧ください。
イヌツゲの剪定方法
イヌツゲは成長が遅いけれど芽吹きが良いという性質のため、形が崩れにくい庭木です。刈り込みにとても強いので、初心者でもあまり難しくはありません。ただ葉を残さないほど深く刈り込んだ場合、翌春には新芽を出して数年後には元通りになるケースも多いですが、株への負担は大きいです。なるべく葉を残した位置で切りましょう。
剪定のコツ
まずは樹形を乱すほど伸びすぎている徒長枝を、深めの分岐点で切り取ります。また他の枝より明らかに太い枝もできるだけ根本から切り取りましょう。太い枝を表面で刈り込む程度にしてしまうと、その切り口からまた勢いの強い枝が伸びてきて、すぐに樹形が乱れてしまいます。できるだけ枝の太さが均一になるようにしておくのが理想的です。枝を間引きすぎて表面に穴が開かないように、細部と全体を交互に確認しながら作業しましょう。
次に、株の内部で枯れ込んでいる枝を掃除します。そのままにしておくとそこから病害虫が発生したりして、内部の枯れ込みを助長してしまうことがあります。そして、内部までしっかり風が通るイメージで、混み合った枝なども整理します。また、株元からひこばえが出ることがあるので、不要ならば早めにカットしましょう。
刈り込みのコツ
ある程度枝を間引いたら、刈り込みます。玉仕立ては、まずは頭頂部のラインを決めて水平にカットします。そこから、肩を落としていくように下に向かって丸く仕上げます。成長期の春に刈り込みをするのであれば、頭頂部を少し深めに刈り込んでおくと、内部に日光が入りやすくなります。
生垣は日のよく当たる上部を深く刈り込んで薄めに、下部をやや浅く刈り込んで厚めに仕上げます。真横から見ると台形になるように刈り込むのが理想です。上部は成長が早くすぐに枝が伸びますし、その間に下部や内部に日光が当たってスカスカになるのを防ぎます。紐などを張ると目安になって失敗しにくくなります。
■剪定方法をさらにくわしく知りたい方は、下記の記事がおすすめです。
イヌツゲを剪定するメリット
「刈り込み」と「剪定」の違いをおさらいしておきましょう。
剪定:樹木の成長や樹形を調整し、樹木の健康状態を維持するために、不要な枝葉を切り落とすこと。
刈り込み:樹木の枝葉の先端を切り、見た目を整えるために切り揃えること。
丸く刈り込んで利用されることが多いイヌツゲ。小さい枝葉は刈り込んでも切り口が目立ちにくく、すぐに新芽が出て形が整うのが特徴的です。真冬と真夏を避ければ刈り込む時期もあまり選びません。玉仕立てやトピアリーのイヌツゲがいつもきっちり刈り込まれていると、お庭がスッキリと美しく見えます。
刈り込みをする前には、透かし剪定を行なうのがおすすめです。刈り込みだけを続けていると、表面だけが枝分かれして密生してしまいます。すると株の内部には日光が届かず、中の枝は枯れ込んでしまいます。剪定をして枝を間引くと中まで日光が届き、内部の枝がスカスカになってしまうのを防ぐことができます。また風通しも良くなり、病害虫の予防にもなります。
また、イヌツゲは葉が細かいので、刈り込みをすると小さい葉が散乱して掃除がちょっと面倒です。大きな枝や徒長枝を間引く剪定は、枝ごと落とせるのである程度まとまって処理できます。剪定をしてから刈り込みを行うと、掃除の大変さも少し軽減します。
剪定を行うメリット
・見た目が良くなる
・内部がスカスカになるのを防ぐ
・樹勢が良くなる
・刈り込みの前に剪定を行うと、掃除も軽減
以上のようなことが、イヌツゲの剪定を行うメリットとしてあげられます。
イヌツゲの育て方
日当たりと置き場所
日当たりが良い場所を好みます。日陰でも育ちますが、徒長枝が目立ったり、葉が少なくなることがあります。また乾燥・潮風・寒さに強く、基本的には非常に強健で手がかかりません。ただ耐暑性は強いものの、強い西日にはあまり強くありません。
用土と肥料
水はけがよく、肥沃な土を好みます。水はけの良い赤玉土に、腐葉土や堆肥などを合わせた用土が良いでしょう。庭植えの場合は、腐葉土や堆肥を混ぜ込みます。肥料は、寒肥として2月頃に、油粕や乾燥牛ふんなどの有機質肥料を株の周辺に埋めます。また土が固くなってきたり、生育が悪いように感じたら、株の周辺に腐葉土や堆肥を混ぜ込むとよいでしょう。鉢植えの場合は3月頃に化成肥料を与えます。
病害虫や注意点
ハマキムシの被害によく遭います。ハマキムシは枝先を糸で束ねて住み着き、若葉を食害します。枝先が閉じているのを見つけたら、指先などで潰して駆除します。またアカシマメイガの幼虫も葉を食べます。また風通しが悪いとカイガラムシが発生したり、乾燥が続くとハダニが発生することがあります。
■害虫対策をさらにくわしく知りたい方は、下記の記事がおすすめです。
まとめ
イヌツゲは和のイメージも強いですが、丸く刈り込んだトピアリーを玄関先にシンメトリーに置けば伝統的なヨーロッパスタイルにもなり、また見た目がかっこよくて特徴的なウンリュウツゲやハイイヌツゲなどは現代風のロックガーデンにもよく合います。使い方が自由なイヌツゲ。ぜひ挑戦してみてくださいね。
ご自身での剪定やお世話などの作業が難しい場合は、庭のプロ集団『庭.pro』までご相談ください。
見積もりも無料ですので、ぜひ気軽にご相談ください。イヌツゲの育つお庭で、皆様の暮らしが豊かになれば幸いです。
2024年1月25日更新
執筆者:造園技能士 竜門 健太郎